秘密実験【完全版】



 杏奈は堪えきれなくなり、思わず目を背けた。


 しかし、少女のおぞましい顔が脳裏にこびりついて離れない。



『あ……んな……』


「……っ!」


 突然、画面の中の少女が低く嗄れた声で杏奈の名前を呼んだ。


 驚いて画面を見ると、少女の空洞の瞳と目が合った。



『ワタシノ名前ハ、木南杏奈……』


「……えっ?」


『ワタシハ、十七歳デ死ンダ……』


「いやぁっ! やめて!」


 少女の発した言葉にビクッと身を震わせ、杏奈は反射的に悲鳴を上げた。


 どうして?


 どうして、私の名前を……。


 画面の中の少女がニタリと笑いながら、杏奈を見つめている。



『早ク、コッチノ世界ヘオイデ……?』


「いやぁあああっ!」


 杏奈は大声を上げながら、バスルームに駆け込んだ。


 そして、声が届かない場所に座り込む。



「ハァ……ハァッ」


 呼吸を荒くしながら、ユニットバスの縁に背中を預ける。


 バスルームに、杏奈の息遣いが反響する。


 そのとき扉が開いて、覆面男が顔を覗かせた。



「杏奈さん……? 大丈夫ですか?」


 心配そうな表情で、囁くように訊いてくる。


 杏奈は涙で潤んだ瞳で、男を見上げた。



「ハァ……助けて……っ。い、息が出来なっ……!」


 息も絶え絶えに、喘ぎながら訴える杏奈。


 一筋の涙が左目から流れ落ちる。



「……落ち着いて。深呼吸して下さい」


 男は屈み込んで、杏奈にペットボトルの水を飲ませた。


 冷たくて、喉越しが良い。



「ハァ、美味し……」


「少しは楽になりましたか?」


「……うん。でも大丈夫なの? 勝手にこんなことして」


 杏奈は不思議に思いつつ、男の行動心理も薄々分かっていた。


 つまり、こっちの演技にまんまと引っかかったのだ。


 ……ありがとう、覆面さん?


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