秘密実験【完全版】



 しかし、犯人グループの年齢を知ったところでどうなると言うのか。


 知りたいのは、自分たちが選ばれた理由と、二人を待ち受ける運命のみ……。


 杏奈は暗がりの中、壁に背中を預けて立っていた。


 テレビ画面には、もう何も映っていない。


 自分の名前を口にする不気味な少女も、しょせんは作りものに過ぎない。


 だから、怖がる必要はないんだ。


 私はまだまだ大丈夫……。


 再び、森耕太郎が現れるときが待ち遠しかった。


 もちろん、恋愛感情は全くない。


 彼が一番扱いやすいからだ。


 早く会いたい、会いたい、会いたい──。


 杏奈は恋人の来訪を願う乙女のような心境で、暗がりの中に佇んでいた。


 しばらくして扉が開いたとき、期待と興奮に胸が高鳴った。



「いやっほぅ! 元気か~? ひゃひゃひゃ」


 ……チッ。


 ピエロ男の顔を見た途端、杏奈は心の中で舌打ちした。


 無言のまま、冷たい目つきで男を見上げる。



「な……何だよ? てめー、喧嘩売ってんのか!? ムカつくガキだな、マジで」


 相変わらず、怒鳴ることしか芸のない単細胞だ。


 杏奈は無視して顔を背ける。



「てめ……マジで犯すぞ。せっかく、お前にいいもん持って来てやったのによ」


 そう言って、ピエロ男がコーラの缶を見せつけてきた。


 コーラ……、悠介!!


 杏奈はハッとして、彼氏の顔を思い浮かべた。



「どうだ? 真夏だから、この冷たいコーラ飲みてーだろ!?」


「……、うん」


 杏奈は少し間を置いて、子供のようにコクリと頷いた。


 ピエロ男が勝ち誇った顔つきになり、缶のプルトップを開ける。



「まずは俺が味見な?」


 そう言って、コーラの缶に口をつけてゴクゴクと飲んだ。


 杏奈は焦れったい気持ちで、恨めしげに男の上下する喉仏を見つめた。

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