秘密実験【完全版】



「ハァ……。ごちそうさま」


 杏奈は全部飲み干して、息を吐き出した。


 これほどまでにコーラを美味しいと思ったことはない。


 火照った身体がクールダウンして、生き返ったような気分だ。



「ちょっと待ってろよ?」


 ピエロ男はテレビの電源を点けると、そう言い残して部屋から出て行った。


 程なくして、テレビ画面に白い部屋が映った。


 悠介……。


 壁にもたれかかるように、グッタリしている人物は紛れもなく悠介だった。


 眠っているのか、頭を垂れたまま動かない。



『おいコラ! 起きやがれ、クソ野郎が』


『う……ッ!』


 怒声とともに、悠介の腹部に蹴りが入れられた。


 足しか見えないが、その横暴さはピエロ男に違いない。


 低く呻きながら、悠介がぎこちない動作で顔を上げる。


 顔はアザだらけで、見るも痛々しかった。



『コーラ持って来てやったぜ! ひひひっ……』


 男は卑しく笑いながら、悠介の顔にコーラの缶を近づける。



『ほ、本当ですか? ありがとうございます……!』


 悠介は嬉しそうに声を弾ませながら、缶に口をつけた。


 ゆっくりと缶が傾けられる。


 しかし──



『……っ!? おええぇッ! ゲホッ、ゲホッ……』


 悠介は激しくえずきながら、口から液体を吐き出した。


 それは明らかにコーラではない。


 ──どうしたの……?


 杏奈は画面に近づき、心配そうな面持ちで様子を見守った。



『あはははは! 女には裏切られ、コーラの代わりに水で溶いた絵の具を飲まされ……。ざまぁねーな!』


 ピエロ男は腹を抱えながら、悶絶する悠介を指差して笑った。


 絵の具……?



「ひどい! そんな……ッ」


『お? これはこれは、自己中女の彼女さんじゃないですか』


「……っ!」


 ピエロ男がニヤニヤしながら、画面越しに杏奈を見つめてくる。


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