秘密実験【完全版】
悠介……泣いてくれてるの?
私のために──。
『辛気くせーんだよ! 男のくせにメソメソしやがって』
ピエロ男が忌々しげに吐き捨て、悠介の頭を拳で叩く。
ゴンッという鈍い音が画面を通して伝わってきた。
「やめてっ……。悠介に暴力振るわないで!」
杏奈は泣き声のまま、ピエロ男を睨みつけながら言った。
『あン?』とチンピラ風に凄みながら、男がこちらを振り向く。
『うるせぇ、ボケ。カス女が! なんならお前、彼氏の代わりに殴ってやろうか?』
「……っ」
杏奈は返答に詰まり、唇を噛みしめる。
『だ、ダメだっ……。杏奈には手を出さないで下さい、お願いします……!』
悠介が頭を下げて食い下がる。
その姿は真剣そのもので、とうてい演技では出せない必死さが伝わってきた。
……悠介、そんなに私のことを想ってくれてるんだね。
すっかり泣き止んだ杏奈は、いまだに涙を流し続ける悠介を見つめていた。
『うっせえ! 俺に指図すんなや。最高にイラついてんだよ、俺は……』
ピエロ男が髪を掻きむしりながら、普段以上に低い声を出す。
何だか様子がおかしかった。
まさか、クスリでもやってるんじゃないでしょうね……?
杏奈は不審に思いながら、固唾を飲んで様子を見守った。
『血が見てーんだよ、俺は。殴らせろ』
『……ぐぁッ!』
ピエロ男の鉄拳が、悠介の横っ面にめり込む。
鮮血が飛び散り、コンクリートの地面に赤い斑点が出来た。
『この野郎! 早く死ねよ、おらぁッ』
『ぐぅおえッ……!』
ピエロ男の罵声と、殴りつける鈍い音と、悠介の呻き声が混ざり合う。
杏奈は耐えられなくなり、バスルームに逃げ込んだ。
「いやぁっ……悠介……!」
隅っこに丸まって座り、身体をガタガタと震わせる。