秘密実験【完全版】
「ん……」
杏奈はピクッと身体を動かし、目を覚ました。
心身ともに疲れたのか、いつの間にか眠っていたらしい。
よろよろと立ち上がって、バスルームを後にする。
テレビの電源が落とされていた。
誰かが部屋に来て、消したのだろう。
「ハァ……」
何とも言えない気だるさに包まれながら、小さくため息を零す。
花柄のワンピースは皺くちゃになり、布が汗ばんだ肌にくっついて不快だった。
そう言えば、悠介どうしたかな……?
彼氏の存在を思い出すまで、目覚めてから数分もかかるなんて。
私はやっぱり、彼女失格かもしれない。
「……ん?」
ふと、毛布にくるむように置かれた茶封筒が目に留まった。
足で毛布を払いのけ、屈んで茶封筒を後ろ手に掴む。
何か、四角い堅いものが入っているようだ。
──どうしよう?
ちょっぴり怖いけど、開けたい……!
杏奈はしばらく迷ったあと、好奇心に負けて封筒の中身を手に取って確かめることにした。
厚めの紙……写真?
それを床に置いて、身体の向きを変える。
「……!」
振り返った杏奈は、それを見て息を飲んだ。
杏奈と同じ花柄ワンピースを着て微笑む、可憐で美しい女性が写った写真だった。
色あせていて、かなり昔に撮ったものだと言うことが分かる。
この女の人……誰だろう?
私と同じものを着てて、気持ち悪い……。
杏奈は知らずうちに眉を寄せながら、写真の中の女性を食い入るように見つめていた。
でも、どこかで見たことがあるような気もする。
何かが閃きそうになった瞬間、扉が開く音が聞こえた。
「あなたは……っ」
そこには、長袖の黒いシャツを着たリーダーの男が立っていた。
その手には、鋭利な刃の小型ナイフ。
──私、殺されるの……?