秘密実験【完全版】



 元が健康体とは言え、まともな食べ物を久しく口にしていない杏奈は、ふとした時に貧血や吐き気に襲われるようになった。


 体重もかなり落ちているだろう。


 栄養失調になって死んでしまうんじゃないか、と言う不安が脳裏によぎる。


 あれから森耕太郎は姿を現していない。


 態度や口ぶりから察するに、彼は杏奈に少なからず好意を抱いていることは間違いなかった。


 ……だからこそ。


 早く来て欲しくてたまらない。


 杏奈は、坊主頭の少年・森耕太郎との再会を心から望んでいた。


 監禁されてから、一体どれくらいの時間が経ったのだろうか?


 家族や学校の友達は、心配してくれているのか。


 警察は動いているのか……。


 数々の疑問が頭の中に渦巻く。



「……おい。お勉強の時間だ」


 ゾンビ男が部屋に入って来るなり、無愛想にそう言った。


 ──お勉強?


 杏奈は立ち上がる気力もなく、グッタリと壁にもたれかかったまま男を見やる。


 手にはDVDを持っている。


 また不気味な動画を見せられるのか……。



「今度は何? 死体でも出てくるわけ」


「見れば分かる。黙って見ろ」


 男に一蹴され、杏奈は黙るしかない。


 タイミング良く、部屋の中が真っ暗になる。


 やがて静寂を破るように、音楽が流れ始めた。



『こども学習ファイル5・お肉が出来るまで』


 杏奈は、画面の文字にキョトンとした。


 ……“お肉が出来るまで”?


 人間が毎日のように食べる牛肉や豚肉や鶏肉のことだろう。


 やはり勘は的中して、丸々太ったピンク色の豚が画面に映し出された。


 豚が殺され、惨たらしい姿で吊されているのを見ても、杏奈は何とも思わない。



「ハァ、お腹空いた……」


 見終わって、そんな呟きを漏らしたほどだ。


 ゾンビ男はDVD片手に、無言で部屋から出て行った。


 食肉の加工動画を見せて、何の意味があるの……?


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