memory
話を聞き終わった村上さんは静かな声で話し始めた。
「なるほど。この事件の少年が君で、わしが君を助けたと。確かにわしはこの事件の日に少年を保護した覚えがある。しかし、すまんの。もう歳のせいか物忘れが激しくて、君の顔までは覚えとらんのだよ。」
「いえ、そのせつはどうもお世話になりました。」
村上さんは横になったまま微笑んだ。
「実は、あの日孫が行方不明になったんだ。今の君と同じくらいの歳やったか。その時孫を探しとったら、孫の代わりに君がおった。」
「村上さんのお孫さんも行方不明に?」
村上さんはベッドの横の倒した写真立てを自分の方に引き寄せて見つめた。
「いい子だった。気の利くいい子で、自慢の孫だったよ。」
村上さんは写真立てを僕に手渡し満足そうに微笑んだ。僕も村上さんの笑顔につられて微笑みそうななったが、その表情は一瞬のうちに凍りついた。まさか、そんな。
「村上さん。あの、この子の名前は?」
なんとなく全てが分かったような気がしても、それを納得する心の準備が、まだ僕には出来ていなかった。
「村上菜々花。父親の方は、村上晋太郎。仲の良い親子だった。……おや?」
目がかすんで何も見えなくなる中、写真立てに映っていた制服姿で微笑むシルクの顔が頭から焼き付いて離れなかった。
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