それはきっと始まりでしかなく
それはきっと



 ――――人魚だ、と思った。




「……はい?」
「ですから、人魚かと」
「……」



 何いってんだこの人。

 真夏の炎天下の中、でかいキャリーを側においてそういう男に私は新手の不審者かナンパかと思った。しかし、ナンパはありえない。こんなド田舎で、しかも誰も歩いていないような場所でナンパだなんてありえない。

 暑いからということで泳いでいたら、防波堤に人の姿があるのに気づいた。別にこれといって気にせず泳いだら、その人が浜辺に降りてきて「こんにちは」といったのである。

 旅行客なのか、でかいキャリーを砂浜にわざわざ運び、隣にいる。





「この辺りでは鮫の昔話があるそうですね。偉い人が海に身を投げて鮫となり、守り神になったという」





 あれか、民俗学とかの先生とかだろうか。たまにいるらしいことは聞いていた。会ったことはないが。


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