それはきっと始まりでしかなく
仰向けからぐるりともとに戻れば、陸には手を振る先生がいた。なんで、と思うも今日は日曜だったなと思い出す。日曜は診療所は休みであるのだ。
しかし、いやいやいや。
短パンにシャツというのと、鞄。「水冷たいですかねー?」といいながらずんずんと海に向かってくるのだから、ぎょっとした。
「先生!ちょっと、泳ぐつもりですか」
「暑いですし」
「……泳げるんですか?」
「人並みには。陽さんには負けますが」
打ち寄せる波にザブザブと入っていったかと思うと、そのまま「あ」潜った。足ヒレも、水中眼鏡も着けず、そのまま。
しばらくして奥から頭を出し「気持ちいいですね!」などと声を張り上げた。
どうやら人並みに、というのは嘘ではないらしい。しかしなんというか、医者が泳ぐというそれがあまり結び付かず、私は波打ち際の石に腰を下ろした。溺れたら助けられるだろうか、と。
しばらくして、濡れた髪の毛をかきあげている先生に「陽さんは何処で働いてるんですか」と言われた。
ドラッグストアで、と返し「出戻りですよ」といえば、「え!結婚してたんですか」といわれ、出戻りといったらそう思われるかと苦笑した。確かに出戻りという言葉は結婚していて、別れて戻ってきたという意味で使われることが多い。
「してませんよ。大学を学費が払えなくなって仕方なく」
そうでしたか、という先生がよっこいしょ、と隣に腰を下ろす。
「今、自暴自棄中なんです」
「へ?」
「……今なら、海に溶けてしまえても後悔しない気がして」
陽さん、という声を無視して私は海へと走りだし、沈んだ。
突発的だった。