それはきっと始まりでしかなく
南国の海なら海の中もさぞ美しいだろうが、田舎の海は綺麗というよりも恐ろしい。底は暗く、昆布なんかが森を作っていたりする。
潜って地上に向けて顔を向ければ、光が見えて幻想的だと思う。ゆらゆらと動く光を見ていて、万華鏡のようだった。魚はいつもこんな光景を見ているのだろうか。吐き出される空気が雫のように真上へと向かって、やがて弾けて消える。
……泣いてしまいたい。
家では泣けないから。
こんな所にいても、なにもない。変なプライドが、それなりにエンジョイしている友人らを遠ざける。連絡をとれば今自分が置かれている身の上を話さなければならないのが苦痛だった。平気なふりをして。そして彼女らはそんな話をばらまくのだろう。
友達なんて、私にはいたのだろうか―――。
何処かへ行きたい。けど、何処へいくというのか。
目を閉じてみる。なにも聞こえず、急に怖くなって慌てて頭を出した。それと同時に息を吸い込み。吐き出す。
足がつくところだからまだいいだろう。しかし、酷く咳き込んだ。ぎりぎりすぎたのだ。苦しい。「陽さん!」というそれに、腕を掴まれた。熱さをもった手だった。生きている手だった。
「何を無茶してるんですか!ほら、一回上がりますよ」
「……」
「陽、さん?」
波を感じながら、それでいて自分が冷たいことを知る。陸側にいる先生は生きていて、実は私はもう、いないのかもしれない。それはそれでいい。けれど先生は私の存在を確かめるかのように熱を感じさせた。生きていると、ここにいると。
いるだけで、いいのだろうか。
「大丈夫ですよ、大丈夫」
その触れた熱が、私を狂わせる。
髪の毛から滴る海水なんかではない雫が落ちて海と混ざっても、その手が、先生の手が触れているだけで私は海には戻れずただ、そこでひたすら波の音を聞いた。
……――――――。