あなたへ。
1-1
彼の第一印象は、パッとしないおとなしい人だった。
初めて彼と出会ったのは、高校二年生のクラス変えのとき。
私の隣の席で、一人小説を読んでいた。
周りで起きていることにまるで興味が無いように見えたし、もちろん、私のことも少しも気にしていなかった。
ただのクラスメイト。
そんな感じ。
私もそうだけど。
お互い最低限のことしか話さないで一年がパッと過ぎた。
三年になっても同じクラスで、また私の隣の席だった。
その頃私は陸上部で、長距離を走ることに専念していたし、彼は吹奏楽部でトランペットを懸命に鳴らしていた。
それでも、一日に一回は話すようになっていたと思う。
どんな話をしたかは忘れたけど。でも、どうでもいい話だったのは覚えている。
彼と話すようになったのは、友達に誘われて吹奏楽部の演奏会に行ってから。
私の記憶が間違っていなければ。たぶん。
私と一番仲がよかった友達は、吹奏楽部でフルートを吹いていた。
「今度、吹奏楽部の演奏会があるから見に来て」
そう言われて、私ともう二人の友達で市民ホールへ出かけた。
座席の五分の一さえも埋まっていなかった。その中で私達は真ん中より後ろの座席に座った。
演奏会は何時間だったか忘れたけど、興味が無い私にとっては凄く長く感じたのは覚えている。
「面白いね」
隣に座った友達に言われたけど、「つまんない」そう答えた。
最後のほうになっても、友達二人は「すごいね」「上手いね」をひたすら連呼していた。私は飽きすぎて座っているのも限界に近かった。
もともと黙って静かにしているのは好きじゃない。
演奏した曲は二十曲ぐらいだったけど、私が知っている曲は二つぐらいしかなかった。
それじゃあ飽きるに決まってる。
「トイレに行ってくるね」そう言って外に出て終わるまで時間を潰そう。そう思って腰を浮かした。
そのとき、曲名は何か知らないけど、ステージの上ではトランペットのソロになった。
私は立ち上がろうと足に力を入れた状態で固まった。
ステージの上では彼が一人トランペットを吹いていた。私はその姿に見入る。
へぇー、吹奏楽部だったんだ。
それが最初の感想。