あなたへ。
 私の住む街にはめったに雪は積もらないので、雪かきというものは珍しかった。私が一人暮らしする千葉でも雪は降るけど雪かきが必要なくらいは積もらない。
「雪かきって大変なの?」
「そうだよ」
「どのくらい?」
「慣れないうちは疲れて動けなくなっちゃうくらいかな」
「そんなに?」
「そう」
「お待たせいたしました~」
 店員さんの明るい声で私と彼の話は一時中断。
 目の前に置かれた皿を見て、彼が「美味しそうだね」と言って、私が「うん」と答えた。
 彼が「いただきます」と言ってから食べ始めたので、私も彼と同じように言ってからピラフをスプーンですくって口に運んだ。
 美味しかった。
 これは本当。
「春休みは戻って来るの?」
「僕?」
「うん」
「春休みは帰ってこれないかな」
「なんで?」
「アルバイトが忙しいと思う」
 私は下を向く。
「だから、次ぎ会うのは夏休みかな?」
「ゴールデンウィークは?」
「そのときも無理だと思う」
「夏休みは?」
「ちゃんと戻ってくるよ」
「本当?」
「本当」それから、
「次ぎ会うときは二人とも二十歳だね」
 私の誕生日は五月。彼は六月だったと思う。
「うん」
 ピラフは美味しくなかった。たぶん。


 帰りは彼に送ってもらった。今度は自転車じゃなくて車で。
 私は助手席に乗っていて、運転する彼の横顔を見ていた。彼はちょっと緊張気味で、真剣に運転していた。
「今まで誰かを好きなったことある?」
「僕?」
 信号が赤だったから彼が振り向いた。私は自分で聞いたのに恥ずかしくなった。どうしてこんなことを聞いたんだろう。
「…うん」
 彼は前を向く。信号はまだ赤のまま。
「あるよ」
「あるの?」
「一回だけなら」
「誰を?」
 彼は答えなかった。
 信号が青に変わり、車が動き出す。彼は前を向いていて、私は窓の外を見る。
 気まずくなったかも。
 たぶん。


 家に着くと、彼とは短い言葉を交わしただけで、次に会う約束もしないでそのまま別れた。
 私も彼もお互い目を合わせることが出来なくて、彼が「おやすみ」と言って、私が「うん」と返事を返しただけ。
 家に入ると、またお姉ちゃんが私の部屋に入っていた。
「おっ帰り~」
「何してるの?」
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