あなたへ。
2-1


 私は階段をのぼる。
 塗り替えたばかりなのか、少しだけペンキのにおいが鼻先をかすめる。
 大学は三度目の春休み。
 私はその間にちょっとした旅行。
 場所は以前に彼から聞いていた。それでも私は少し迷う。でもあきらめない。だから、
 私はドアの前に立つ。
 会えるのは夏休みと冬休みのわずかな間だけ。たったそれだけ。連絡はよくとっていたけど、それだけじゃダメ。だから私は、
 怖々チャイムを押す。
「はい」
 そんな声が中からして、足音が聞こえる。カギを外す音がして、そしてドアが開く。
「どちらさ」
 彼の動きが止まる。
 私はちょっと上目遣いで彼を見る。ちょっと緊張。
「…井上さん?」
「うん」
「どうして、」彼は一度息を呑む。
「ここにいるの?」
「会いにきたの」
「会いに?」
「あなたに」
「僕に?」
「うん」
「わざわざ北海道まで?」
「うん」
 彼は笑顔になる。久しぶりに見る。
「ありがとう」
「うん」

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