切美
ある日、剛は雑貨屋へ行って姿見を買った。
もう上半身しか映らない、洗面所の鏡ではがまんができなかった。
もっと大きな鏡で切美の全身を見たい。切美の頭頂から足先までを、目に焼きつけたい。
背中にかついで、姿見をアパートに持ち帰ると、部屋の壁に立てかけた。
そして、剛は切美のために買った服の中で、もっとも金をかけたものを身にまとった。
紫色の着物である。布地には、金色の刺繍で、数匹の鳥の影が縫われている。
実家で茶道をやっている、姉の着付けを手伝ったことがあるので、着替えにはそれほど手間どらなかった。襟や裾の乱れに気を使いながら着替えたあと、いつもより慎重に化粧をした。
姿見の前に立つと、剛はほうとため息をついた。