切美
いつもとちがう切美が、そこにいた。
いままでのいろんな洋服を着てきた切美には、どこか少女らしさが残っていたが、いま姿見に映っている着物姿の切美は、完全な女だった。全身から、匂いたつような色気がただよっていた。剛は息がつまりそうになった。
窓の外で、電車の走行音が通りすぎていった。それからかすかに子ども達の遊ぶ声がした。どこか遠くのほうで、犬が一回鳴いた。
しばらくの間、剛は無言のまま、吸いこまれるようにして、姿見を見つめていた。