切美


部屋にもどり、ドアを閉めると、切美はため息をついてつぶやいた。


「ありがとう。楽しかったわ」


すると剛は元どおり、身体を自由に動かせるようになった。雪駄をぬいで廊下にあがり、軽くのびをすると、腕や足にわずかな痛みが走った。長時間、慣れない女らしい動作をつづけたせいで、身体に少し負担をかけたらしい。


「ごめんね。わたしのわがままであちこち連れまわして。つかれたでしょう」


「大丈夫。大丈夫」


「でも、わたしばかり楽しんでたし」


「そんなことないよ。おれも楽しかったから」


「本当?」


「ああ」


剛は部屋にはいると、帯を解こうとした。


「待って」


切美がそれを止めた。


「何?」


「剛君、ちょっと鏡の前に立ってくれない?」


「いいけど、なんで?」


たずねながら、姿見の前に立った。


「今日のお礼がしたいの」


「お礼?」


「うん」少しの間だまってから、切美は低い声でこう聞いた。「ねえ、剛君。わたしってきれいかな?」


「え?」剛は苦笑した。「何をいまさら。そんなの言わなくてもわかるだろ」


「言ってほしいの」


「そんな、恥ずかしいよ」


「お願い。言って」


鏡に映る切美の瞳は、なぜか迫るような眼光をはなっていた。剛はそれに気おされた。


「わかったよ」照れくさそうにつぶやく。「切美はきれいだよ。お世辞じゃなしに、おれがいままで見てきた女の中で一番きれいだ」


「ありがとう」切美は静かに笑みをうかべて、息をひとつつくと、ねばりつくような上目遣いになり、熱っぽい声でささやいた。「ねえ、わたしにさわりたくない?」



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