切美
「次はここ」
切美は帯をゆるめ、着物の襟を広げた。白い胸元がのぞいて、右手はびくんとふるえた。
その反応に切美は微笑み、右手を鎖骨にあてた。右手は今度はゆっくりと忍ぶように、うなじや喉元をなでた。切美の湿っぽい吐息がたまにかかって、手の甲の産毛をそよがせると、右手はくすぐったそうに指をひねった。しばらくしてから、おずおずといった感じで、右手は襟の中に指をさしいれようとした。するとまた、左手がやんわりとそれを止めた。
右手はおとなしくさがり、名残惜しそうに鎖骨をつついた。しかし、さわれそうでさわらせてもらえないという状態は、かえって背徳的な興奮に満ちていた。
剛の右手の感覚は、異常に鋭敏になっていた。胸元を這い回ると、あるはずのない乳房の気配を感じるような気がした。
「次はわたしがさわってあげる」
全身の感覚が急にもとにもどって、剛は前につんのめった。ぼんやりとしていると、いきなり生温かいものが口の中にはいってきた。
右手の人差し指だった。
ひとりでに、口につっこまれたのだ。さっきとの入れ替わりで、右手のみが切美にのっとられていた。人差し指は口の中で舌とからみあった。しょっぱい汗の味がした。人差し指がひきぬかれると、唾液が糸をひいた。唇は、切美の声でささやいた。
「さあ、あなたが気持ちよくなる晩よ。どこをさわってほしい?」
剛は顔を赤らめ、うつむきながら、もてあそんでほしい箇所を口にした。切美の右手は着物を脱がし、剛を全裸にした。そして、剛が口にした箇所のひとつひとつを、なでさすり、もみしだき、時々わしづかみにした。その中でもっとも敏感な箇所を、唾液に濡れた人差し指ではじくと、剛は女のような悲鳴をあげた。
そのあとも剛と切美は、交代しながら互いを愛撫しあった。この不気味な痴戯は、剛が果てつくして立てなくなるまで何度もくりかえされた。