切美
朝、剛は妙な狭苦しさを感じて目をさました。小さくうめきながら、布団の上で寝返りをうつと、肩が何か弾力のあるものにぶつかった。
何だろうと思って目をひらくと、隣で知らない中年の男が裸で眠っていた。
おどろいて飛び起きると自分も裸だった。
剛は混乱しながら叫んだ。
「誰だてめえ」
男は目をさますと、まぶたをこすりながらつぶやいた。
「どうしたの?」
「どうしたじゃねえよ。誰だよおおまえ?なんでおれの布団で寝てんだよ」
「は?」男はとまどいの目を向けた。「何言ってんだよ。あんたがおれをここに連れてきたんだろう」
「え?」
剛はますます混乱して頭をかかえた。それから、はっとして姿見の方を向いた。そこに映る剛の顔には化粧がぬられていた。
切美だ。
深夜、剛が寝ている間に、切美がまたもや身体をのっとったのだ。そして外に出て、この男を誘い、いっしょにアパートに帰ってきたのだ。
そのあと男と何をしたのか。
互いに裸であることから、それは容易に想像できた。
剛は吐き気をもよおした。あわてて立ち上がり、便所に駆け込むと、便器にもたれかかって吐こうとした。しかし空腹だったために何も吐き出せず、げえげえと喉を鳴らすことしかできなかった。
「おい、大丈夫か」
男が歩みより、手をさしのべてきた。剛はその手をはらいのけた。
「出ていけ」
「何?」
「出ていけっつってんだよ」
どなりながら立ちあがると、男を思いきり殴りたおした。そしてその顔が腫れ上がるまで何度も踏みつけたあと、男の身体をひきずり、服といっしょに外へ放りだした。