切美
部屋にもどると、剛は拳を強くにぎりしめながら、姿見に映る自分にむかって大声をあげた。
「切美」
鏡の中の剛の顔は、切美の物憂げな表情に変わった。
「何よ」
「てめえ、何てことをしてくれたんだ」
「ちょっと遊んだだけよ」
「ふざけんじゃねえぞ、こら」
切美は眉間にしわをよせた。
「いつもいつもうるさいわね。あんまりうっとうしいことを言うと消えるわよ」
「ああ、消えろ。おまえにはもううんざりだ」
怒鳴ってから、自分の言葉に後悔した。しかし言い直そうとは思わなかった。これ以上切美の勝手を許すと、どんなことをされるかわからない。
「ちょっと勘違いしないでよね」切美は暗く笑った。「わたしはね、あなたが消えるって言ったのよ」
剛は言われていることがわからなかった。
「何だと?」