切美
毎日、あの女のことを思うようになった。あれは化粧をした自分だと頭ではわかっているのに、心の中では「あの女」と呼んでいた。剛は自己嫌悪におちいった。
「これじゃあ、変態じゃないか」
化粧をした自分の姿に欲情する。確かにまともではない。
毎晩、布団の中で妄想にとりつかれた。最初の夢と同じ、化粧をした自分とまぐわう妄想だ。胸がしめつけられる。思わず火照ったうめき声をあげてしまう。やがてその妄想は昼間もつきまとうようになった。大学で授業を受けているときも、アルバイトをしているときも、切なく苦しい状態がつづく。
あの女に会いたい。妄想ではなく、現実の世界で抱きしめたい。
しかしそれは無理だ。あの女は自分なのだ。自分をどうやって抱きしめろというのか。
何度も己に言い聞かせた。「あの女」なんていない。あれはあくまで自分なのであって、この世に存在する女性ではないのだ。しかし感情は、赤子のように会いたい、と駄々をこねる。