それでも僕は君を離さないⅡ
「あなたにもきっかけがあれば思い出せる可能性がありますよ。但しそのきっかけはいつどこにあるかは残念ながら予測できません。」

「はい。」

「そこであなたにできることを伝えます。今までと同じ普段通りの生活ペースに戻ります。」

「はい。」

「明日から会社へ出勤して通常通りに過ごしていきます。」

「はい。」

「肝心なのは、忘れてしまったことを常に思い出そうと努力することはしないでほしいのです。」

「はい。」

「忘れてしまったことを忘れるくらい日常に専念してもらえたら、何かが変わる確率が上がると私は信じています。」

「はい。」

「あなたは相手の記憶を取り戻したいと願っていますが、決して失ったわけではないのですよ。脳のどこかに確かにしまわれています。それを信じてほしいのです。」

「はい。」

私は涙が止まらなかった。

彼の記憶はなくなったわけではない。

私の頭の中のどこかに必ず残っている。

私はそう信じた。

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