それでも僕は君を離さないⅡ
ε.もう一度思い出せると信じて
ラボの久保主任は今日も艶のある素っぴんの肌をさらし

デスクのPCに向かっていた。

さっき化粧室で塗り直したグロスたっぷりの唇をとがらせて

新人研修医の評価を今日中に提出しなければならないことに

かなり苛立っていた。

「失礼。久保主任?」

「あら、坂下さん。」

「今いいかな?」

「構いませんけど。」

僕は笹尾の様子がおかしいのを気にしていた。

あの事故で彼も軽症とはいえ打撲を負った。

あれ以来社内で何度か彼を見かけたが

生気がないように見えた。

ラボが忙しいのか?

それとも僕が立ち入る必要のないプライベートなことなのか?

一番そうであってほしくない奈々に関係することなのか?

彼に直接声をかける勇気がなかったから

ラボをのぞきに来た。

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