雨のち晴れ
守りたいもの ―正樹side
**守りたいもの ―正樹side **
「あの人は変わり者だからねぇ…。
正樹、あのおじさんに挨拶だけして来なさい。」
「うん、分かった!」
うろ覚えな幼いころの記憶。
母親は、その人――実の弟とあまり仲が良くなかったようだ。
…いや、違う。
親戚中から、その人は浮いた存在で、あまり関わりたくなかったようだ。
「伯父さん、こんにちは。」
「やぁ、こんにちは。」
幼いころに、親戚内での誰かの冠婚葬祭で数回会っただけだった。
けれど、その独特な柔らかな雰囲気と、優しい笑顔はずっと忘れられなかった。
伯父さんには人を引き付けるような魅力があると、少なくとも当時の俺は思っていた。
小学生の低学年が最後だっただろうか…
それきり伯父さんとしばらく会うことは無かった。
母親も仲良くはないし、伯父さんが一体どんな人で、どんな仕事をしていて、どこで暮らしているのか、何も分からなかったが、風の噂で喫茶店を経営していることだけは知っていた。
どことなく、伯父さんはコーヒーの香りがしたような、そんな気も今ではする。
そんな俺は、ごく平凡に過ごして来た。
しかし一つだけ違うとしたら、母親とはあまり仲が良くなかった。
べつに虐待を受けていたわけでもないし、育児放棄をされたわけでもない。
「正樹、成長するとともに浩一に雰囲気が似て来ている気がする。はぁ、私は正樹とどう接すればいいのか、分からないわ。」
思春期という多感な年頃の時にたまたま聞いた母親の言葉。
このとき、とっさに伯父さんのことだと思った。
これが母親との距離を感じるようになったきっかけである。