雨のち晴れ
そんな中で、俺は育った。
別に母親のことが嫌いなわけでもないし、育ててくれたことに感謝もしている。
しかし、一度開いた、見えない心の距離は縮まることは無かった。
そしていつも脳裏には、いつの日かの優しい伯父さんの笑顔があった。
大学の進学先は県外。
なぜその大学を選んだのか――
もちろん、レベルと興味のある学部があるから選んだのだが、それだけではなかった。
大学にこだわったわけではない。むしろその県に、地域にこだわった。
引っ越しも済み、もうすぐで大学生活が始まる4月。
俺は家の近くのある喫茶店を訪れた。
『カフェ・リベルタ』と看板に書かれた小さなこじんまりとした喫茶店。
外には観葉植物や、プランターに花が植えられており、とても綺麗に手入れがされていた。
扉を開けるとカランコロンと、レトロな音が鳴り、身体全身がコーヒーの良い香りに包まれた。
広くはない店内であったが、とても優しい雰囲気のお店で、初めて来たのにもかかわらずホッとするようなそんな場所だった。
その時、お客さんと思われる人はいなく、「いらっしゃい。」と、ひとりの男性がカウンターに腰かけ、本を読みながら言った。
その人は紛れもない、俺が探していた人。
「伯父さん…」
ゆっくりと顔を上げ、伯父さんは俺を見て、「やぁ。」とあの優しい笑顔で微笑んだ。
ジャズだろうか、店内には音楽が流れ、それがまたお店の雰囲気と合っていた。
「森岡です…森岡正樹です。ご無沙汰しています。」
「うん、正樹くん。久しぶりだね。大きくなった。」
不思議と伯父さんは、会っていなかった長年の月日がなかったかのように、自然に話した。