雨のち晴れ


伯父さんから聞けるたくさんのお話。

そして初めて肌で感じる社会というもの。


「接客って楽しいすね。」

お客さんと接するということ。
そして常連さんと仲良くなって、他愛もない話をすること。

そんな些細なことが楽しかった。

「正樹は人と接する仕事が向いているかもしれないね。卒業後のこと、考えてるのかい?」

「まだ、全然っす。
でもここでバイトして感じるのは、こうやってお客さんと関わることにとてもやりがいを感じます。」

「そうだね、そうやってゆっくり見つけていけばいいよ。」

そんな風にして毎日は過ぎていった。


いつだったか、伯父さんと恋愛の話を一度だけしたことがあった。

「きっとまだ正樹は本気で人を好きになったことがないんだね。というより、そういう人に出会えていないんだろうね。」

「そうなのかなぁ…運命ってあるんすかね?」

「運命、ね。僕は年甲斐ないけれど、あると思うよ。」

「へぇ。」

そうそう、伯父さんがこんなことを言ったから、当時は少し驚いた。

「伯父さんは、そういう運命の人いましたか?」

「ふふふ、そう聞かれると、少し恥ずかしいなぁ。」

「えぇっ、いたんすか?!」

俺はカウンター越しに、少し身を乗り出して聞いた。


伯父さんに女性の影は無かった、少なくとも今の俺の知る限りでは。

「運命かどうか、そういうことは分からないけれど。
心から、大切だと思えた人がいたよ。正樹もそんな人に出会えるといいね。いや、きっと出会えるよ。」

「俺、その話聞きたいっす。」

「いやいや、もうこの話はおしまい。今日はもうお店閉めようか。」

その時、伯父さんは笑って俺の話を交わし、表の看板をCLOSEにしに行った。

「運命…ねぇ。」

俺は布巾を持って、ポツンと呟いた。


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