雨のち晴れ


当時の俺には、そういうことが分からなかった。

恋愛に関して奥手とか、女の子が苦手とかそういうわけではない。
ただ、人を想うということが分からなかった。

だからこそ、伯父さんにそんな人がいたということには驚いた。

それにしても、どんな人なんだろうか。

伯父さんが想う人――


しかし、それ以来、この話をすることは無かった。


そして、何だかんだで、大学生活はあっという間で、本格的な就職活動を迎えた。

人と関わるような(もちろんどんな仕事も関わるけれど)、そんな仕事をしたくて就活をした。

就職は地元に戻ろうと決め、伯父さんにもそのことを話した。


「そうだね、仕事をするなら、何かと慣れた地元の方がいい。ご両親を十分に頼りなさい。」

伯父さんのコーヒーを飲みながら、ここで仕事をするのもあと少し。

そのことを考えると、少しだけ寂しさを覚えた。

「ははは、何言ってるんだい。僕はずっとここにいるよ。ずーとね。」

いつもの優しい伯父さんの笑顔。
俺はその笑顔を見ると心の底から安心できる。


そんな俺は、ありがたいことにいくつかの企業から内定をもらい、外資系の保険会社への就職を決めた。


アルバイト最終日。

俺は伯父さんにあるお願いをした。


「伯父さん、カルボナーラのレシピ教えてください。」

伯父さんが作るカルボナーラ。
俺はこのカルボナーラが世界で一番美味いと思っている。絶品だ。

伯父さんは優しく微笑み、小さなメモをくれた。

材料と簡単な手順が書かれたメモ。

「今から作るから、あとは微妙な加減を目に焼き付けて。」

そう言って、伯父さんはいつも通りカルボナーラを振舞ってくれた。


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