雨のち晴れ
「とっても美人さんだよ。綺麗だけじゃなくて、とても魅力のある女性。
惹かれる人はとことん惹かれるよ。」
伯父さんが話すことに、どう返していいか戸惑った。
「もしかしたら、正樹が惚れてしまうかもしれないね。」
「えっ…」
驚く俺を見て、伯父さんは楽しそうに「紗子の相手が、正樹なら何も心配いらないな。」と笑った。
「思い残すことなんて何もないよ。正樹、紗子をよろしくね。」
俺は少しドキッとするものの、伯父さんの言うことに力強く頷いた。
正直、この時、朝比奈さんのことなんて考えるほどの余裕が無かった。
伯父さんが癌———そのことを受け入れるだけで俺の心はいっぱいいっぱいだった。
少し痩せたものの、あんなに元気そうじゃねぇか。
そもそも、朝比奈さんを見守るって?
伯父さんは、俺が何をどうしろと言うのだろうか?
俺に出来ることってなんだろうか?
俺は帰り道、すっかり日が暮れた夜空を見上げながら歩く。
なぁ、なんで伯父さんなんだよ。
よりによってなんで伯父さんなんだよ。
伯父さんを…まだ連れて行かないで。
気付けば俺の頬に一筋の涙が伝った。