雨のち晴れ


紗子は強い。初めて会った時からそうだったね。
たくましくて、とても十代の女の子とは思えなかったよ。
胸をしゃんと張っていて、でも誰かを信じることは怖くて。

そんな紗子が、このお店を気に入ってくれたことは本当に嬉しいよ。
そして、僕の元で働いてくれていることも。

そんな紗子だけど、やっぱり小さな悲しみを背負った姿を見ると心が痛くなる。
そして、僕に頼って生きているんじゃないかなって。

大人に反発しながらも、どこか心の拠り所を求めているんじゃないのかなって思うんだ。

きっと今の紗子にとって、それが僕。


だから、もし僕が癌でいずれ死ぬだなんて聞いてしまったら、僕の後を追ってしまうんじゃないかって。
そう考えると、どうしても言えなかった。

紗子はまだ若い。
僕なんかに頼らなくても、もっと信頼出来る人はたくさんいる。

そのことを知ってほしい。


ねぇ紗子。
紗子は今までの人生、本当に苦労したと思う。

ご両親のこともだし、親戚や施設、それからの金銭的な面。
それをやってのけてきた紗子は凄いし、僕は尊敬するよ。

だからこそ、もっと人を頼っていいんだよ。僕以外にもね。


本当は紗子が巣立っていくまで、僕は紗子の傍に居たかったよ。
ずっとずっと、見守りたかった。

紗子は僕にとってかけがえのない家族のような人だから。

紗子は、自分のことを受け入れてくれてありがとう、だなんて思ってくれているのかもしれない。
けれど、僕も、そう思っているよ。

僕は昔から少し変わっているだなんて言われてきて、この世界が息苦しいだなんて思っていた時期があった。

だからこそ、あのお店はそんな息苦しさから解放されたような空間なんだ。

そんな僕と、あの場所を紗子は気に入ってくれたね。
それだけで本当に幸せだよ。


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