雨のち晴れ
「やだ、暮らさない。」
「ん。まぁそれはもう少し先の話か。」
少し残念そうに、でも楽しそうに笑う正樹。
私は紅葉を見ながらぼんやり考える。
平然を装っているけれど、あんなことを不意に言われて少しだけ動揺している。
誰かと暮らすだなんて、もう何年もなかった。
施設にいた時も、一人同然みたいな所もあったし。
それに少しだけ想像してしまった。
正樹と暮らすことを———
そこには、普段見ることのない笑っている私がいた。
「……。」
私と正樹の曖昧な関係。
素直に正樹は想いは伝えてくれているのに、私はなんだか逃げているような気がする。
正樹はずっと傍にいてくれるんじゃないかという安心感と余裕感。
そして、きっといつかいなくなってしまうのではないかという恐怖感。
「…紗子?」
「えっ」
「どうした、ボーッとして?」
「ううん、なんでもない。」
私と正樹はゆっくり歩いた。周りの人たちよりもずっとずっとゆっくり。
時折二人で空を見上げて、マスターの話をしたりなんかして。
この穏やかでゆっくりとした時間が、ずっとずっと流れてくれればいいのに。
私は今日、生まれてきてから1番ゆっくりとした時間を過ごしてきているような、そんな気がした。