雨のち晴れ
氷の心
**氷の心**
それからというものの、不審者はちょくちょくコンビに来るようになった。
時間は決まって夜の9時過ぎ。
「紗子ちゃーん、いい加減営業スマイルでいいから俺に笑顔を見せてよ?」
「…648円になります。」
「はぁー、今日も進展無しか。」
がっくりとうなだれる不審者をよそに私は淡々と仕事をこなした。
「すげぇな、誰にも開かないその心、俺開けたいわ。」
いちいち、余計なお世話だ。
この不審者に私の何が分かるというんだ。
「紗子、そのポッケから出てる紐ってさ…」
今日はやけに長く居座るな、と感じつつ不審者に視線を送り「防犯ブザーです。」と答えた。
「げ、マジで?!これって俺対策?」
「はい。」
半分本当で、半分嘘だ。
この間ホームセンターに行ったときに半額になっていたから購入した。
前の日のニュースで、防犯ブザーの特集をやっているのを見て、ただつられただけの話。
まぁ、効果もかなりあるらしく、持っていて損は無いだろうということで。
実際、今、私の目の前に不審者がいるわけだし。
「俺、どんだけ怪しいと思われているの?」
悲しそうにため息をつくが、どれだけ経ったって怪しいことには変わりない。
「帰ってください、仕事の邪魔です。」
「俺のこと、少しは興味わかない?だって俺、まだ名前しか伝えてないんだよ?」
「無いです。」
そもそも、紗子と気安く呼ばないでほしい(名前を知っている理由も謎だけれど)。
「まぁ、警察に言わないだけ、紗子の優しさに感謝するわ。」
そう言って、フッと不審者は笑った。