雨のち晴れ
「あーっ、紗子ちゃんの彼氏!また来てる。」
はぁ、やっと不審者が帰るかと思ったのに、めんどくさい子が現れた。
「あ、どうも~」
「やーん、相変わらずラブラブなんだから~!絵里、羨ましいです!」
もうお願いだから、やめてほしい。
絵里はすぐこのとんでもない不審者のことを彼氏だと持ち上げる。
そして、そう言われまんざらそうでもない不審者。
私は、他のお客さんがレジに来そうなことを察知し、サッもう一つのレジの方へ移った。
「お客様、こちらでお伺いいたします。」
全く、こんな奴のせいで、クレームでも来たらとんでもない。
日頃の努力がすべて水の泡だ。
「じゃあ、また来るよ。」
不審者がやっと帰ったのを、遠くで感じ私は胸を撫で下ろした。
「もう、紗子先輩!なんであんなに森岡さんに冷たいんですかー?
あんなに森岡さん、先輩のこと好きなのにー」
絵里はどこまで知っているのだろうか。
本当に不意に現れた見知らぬ人なのに。
絵里はきっと前からの顔見知りだとでも思っているのだろう。
だからといって、全部話すのも面倒くさい。
このまま適当に言ってればいいとも思っていた。
「はーあ、先輩、あんな素敵な人と知り合いなんですねー。いいなぁ。
なんか紗子先輩って謎が多いけど、でもやっぱり絵里は先輩のこと好きです。」
綺麗にカールされた栗色の髪の毛先を、くるくると絵里はもてあそびながら言った。
「それは、どうも。」
絵里は面倒くさいけど、別に悪い子ではない。
だからこの子に特別冷たくしているわけでもないし、ただ私は誰とも距離を縮めないだけの話。