雨のち晴れ
似ているのだ、マスターに。
あの柔らかな雰囲気、柔らかな笑顔。
「……。」
もちろん顔付きとか、仕草とか、マスターに似ているわけではない。
でも、今、私は確実にマスターを感じた。
あの優しい雰囲気、温かい雰囲気を。
思えば、アイツに初めて出会ったとき、あの瞳に私は拒絶をしなかった。
あんなにも、人が嫌いなのに、どこかアイツだけは憎めていなかったような気がする。
きっとそれは、アイツがマスターのように優しい雰囲気を持っているからだろうか。
マスターと何かが違う、それでも私が受け入れられるような何か―――
「次は〇〇~、〇〇~」
ハッとすると、私が降りる大学の最寄り駅に着こうとしていた。
私は朦朧とする意識の中、アイツを見る。
何かの資料を目にし、時折外や腕時計に視線を送っていた。
まだ降りる気配は無い。
「……。」
気が付くと私は、降りるはずの駅を見過ごしていた。
何をやっているんだろう…?
そう自分に問いてみる。
ただ今は、無性にアイツが気になってしまった。
森岡正樹という人間が、彼は一体何者なのだろうか?
馬鹿馬鹿しいけれど、私はアイツを少しだけ尾行してみることにした。