雨のち晴れ



こんな風に、自分から他人に興味を持ったのは初めてだ。

マスターに対する気持ちとは違う、また別の何か。

どこへ行くのだろうか、そもそも、何の仕事をしているのだろうか。

そう言えば、アイツ自身言ってたけれど、私は名前しか知らない。
もうコンビニに現れるようになって1ヶ月になろうとしているのに。


しばらく私は電車に揺れた、時々アイツに視線を送りながら。


「次は△△~△△~」

やっとアイツがドアの方へと動いた。


驚いた…席を譲って実に40分は電車に乗った。
途中で妊婦さんが降りるとき改めてお礼を言っていたくらい。

こんなにまだ先があるのに、アイツは席を譲ったんだ。周りには、もっと先に降りる人たちがたくさんいたのに。

そして電車を降り、改札を抜ける。

私も気付かれないように、慎重に後を追った。
けれど意外に人が多く、ごった返す人たちで思うように進めなかった。


「あれ…」

駅構内の大きな曲がり角に差し掛かった時、私完全にアイツを見失ってしまった。


ははは、私、本当に何やってるんだろう。

よく分からない興味から、しんどい思いをしてこんなに遠くまで来て。
挙句の果てに、見失ってしまうなんて。

…アホくさ。

ドッと疲れが肩にのしかかってきた。

やっぱり、ロクなことないんだから。
他人と関わりを持とうだなんて、やっぱり私、どうかしている。


はぁ…レポートやらなくちゃ。

来た道をそのまま引き返そうとした時だった。


「さーこちゃん。」

後ろから嫌な声がした。



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