雨のち晴れ
「俺は紗子を裏切らない。」
「えっ…」
「紗子、一度でいいから俺を信じてみて。」
優しい中にも、力強さがあった。
「なんで…どうして…」
こらえていた涙がポタポタとこぼれた。
「どうしてあなたは私なんかに…こんなに無愛想で、あなたのことなんか邪険にしか扱ってないのに。」
「俺は、紗子の、その冷え切った氷の心を溶かしたい。人の温かみを紗子に教えたい。」
「…っ」
私は、その時初めて、握られていた手を握り返した。
ずっと真っ暗だった私の心。
その時、一筋の光が差し込んだような気がした。
マスター以外で、初めて私が心を許せるような、少しだけそんな気持ちになった。
それ以上に、私の心の中には、優しさと、温もりと、安心感でいっぱいだった。
それは、あの時の―――マスターと初めて出会った雨上がりの帰り道のときの自分のようだった。