雨のち晴れ
私はカバンからスマホを取り出して、アドレス帳を開く。
何度も何度も見ては、消そうと思っていた。
あまりにも見過ぎたのか、いつのまにか番号は覚えてしまった。
「もしもし?」
「……っ」
彼の声を聞いた瞬間、安堵からか涙がこぼれ始めた。
いつもの、優しい、温かい声。
「もしもーし?」
「ま、さき…正樹…っ」
「紗子?」
気が付けば、私は正樹に初めて電話をしていた。
「っ…」
私の声に気付いたと同時に、ただ事じゃない空気を感じ取ったのだろうか?正樹は「紗子、どうした?」といつになく真剣な声をしていた。
「ま…さき…」
「紗子?」
「…けて」
「え?」
「助けて…っ」
「…今どこにいる?」
「分かんない、ねぇ、正樹、お願い、助けて。」
私は泣きじゃくりながら正樹の名前を呼ぶ。
「怖い、正樹、お願い…」
「紗子、落ち着け、大丈夫だから、な?」
正樹の声を聞いて、私は少しだけ安堵したのか、涙が止まらなかった。
スマホを両手で強く握り、正樹の声にすがっていた。
「紗子、バイト終わりか?」
「うん、今、家の近くの遊歩道…」
正樹の声は不思議、さっきまであれだけパニックで居場所すら伝えられなかった私が、だんだん落ち着いてすんなり伝えられた。