雨のち晴れ
「分かった、それだけで十分だ。大丈夫だからな、紗子。今すぐ行く。」
「うん…」
「近くに街灯があれば、そこにいなさい。大丈夫だから。」
「うん…」
電話を切り、私はよろよろと立ちあがる。
また一人になってしまった気がして、恐怖に襲われた。
身体の震えが止まらない中、少し歩いて小さな街灯にもたれた。
お願い、正樹。早く来て。
そう祈りながら、私は体を小さく丸める。
こんなに怖いことは今までなかった、とにかくそれ以外考えられなかった。
しばらくして、遠くから「紗子っ…!!」という正樹の声が聞こえた。
私がゆっくり顔を上げようとした時に、視界がはっきりしないまま、抱えるようにきつく抱きしめられた。
「ま、さき…」
私は正樹の香りを感じた途端、再び涙を流した。
「ごめん、紗子。ごめんな…」
なぜか正樹は何度も謝って、頭をポンポンと触った。
「守ってやれなくて、ごめん。」
「……っ」
私は自然と、正樹の首に手を回した。
暖かかった。
こんなにも安心する正樹の声、そして優しい温もり。
身体の震えは、嘘のように止まっていた。
「正樹…」
私は、正樹の顔を見る。
正樹の顔は今にも泣きだしそうで、でもやっぱり綺麗な瞳をしていた。
正樹なら、きっと信じることが出来る。
ううん、違う。
もう私は正樹のこと、信じ切ってるんだよね。
私は涙でぐちゃぐちゃな顔を、正樹の胸に押し当てた。