雨のち晴れ
「紗子。」
しばらくして、正樹はリビングの入り口に立つ私の頬に優しく触れた。
「とりあえずシャワー浴びておいで、今お湯張ってるから。」
「うん…」
「着替えはこれ使って、俺のだからダボダボだろうけど。」
私は静かに頷いた。
正樹に促されて洗面所の方へ向かう。
扉が閉まったものの、私はしばらくその場に立ち尽くした。
明るいから恐怖心はだいぶないものの、それでも一人になるのは、今は苦痛だった。
こんな風に一人が辛いだなんて、思ったことないのにな。
鏡に映された自分を見るのが怖い、まだ掴まれた肩はズキズキと痛む。
よく見ると、膝にはまだ土がついていた。
「ひどい顔…」
遊歩道なんて通るんじゃなかった。
危険だということは、初めから分かっていたこと。それなのに、私ってば…
防犯ブザーのおかげで、大事には至らなかったからまだ良かった。
防犯ブザーが無かったら、と考えただけでも恐ろしい。
それでもなんとなく、身体を乱暴に扱われた感触が残っていて、早く消し去りたかった。
大きなバスタブ、一体この家はどれくらいの広さなんだろう。
熱いシャワーを出し、全身に浴びる。
やっと、身体に血液が巡る感じがした。
私、今ちゃんと生きてる、そう思えた。