雨のち晴れ
「さーこ。」
「え?」
「何度も言うけどさ、そんなこと紗子は気にしなくていいの。俺が勝手に動いてるだけだから。」
「……。」
「紗子、優しくなったな。」
えっ?
「まぁ、もともと優しい心を持ってるんだよな、きっと。表情もずいぶん柔らかくなったよ。」
「えっと…」
私が、優しい?
表情が柔らかいって。
何よそれ、意味分からない。
私はそんな良いモノ、持っていない。
「それに、化粧落としてんのに、すげぇ綺麗。」
不意にそんなことを言うものだから、私は言葉に詰まった。
「俺は紗子を裏切らないから、な?」
時々、正樹の醸し出す雰囲気は、やっぱりマスターに似ている。
言うこととかは違うんだけど、なんて言うのかな、大人の雰囲気なのかな。
だから、少しだけ胸が苦しくなる。
マスターに会いたいーーーー
「明日は予定あるのか?」
「ううん、明日はバイトもお休み。」
「そうか、じゃあ朝はゆっくりして行きな。悪いけど俺、明日仕事だから。」
そう言って正樹は立ち上がって、カウンターでゴソゴソと何かを探す。
「ん、コレ。」
そう言って、正樹が差し出したものは鍵だった。
「この部屋の鍵、合鍵ってやつ。紗子、持ってて良いよ。好きな時においで。」
「え、あ、ちょっと待って。そんな、鍵だなんて受け取れない。」
私は慌てて首を横に降る。
「朝、正樹が出る時間に一緒に出るから。」
正樹ってば、本当に突然過ぎる。