雨のち晴れ
「すみません、余計なお世話ですよね。でも絵里、紗子先輩のこと大好きだから。先輩には笑っていてほしい。」
「……。」
「先輩、滅多に笑ってくれないし。でも時々、本当に時々、森岡さんの前で、ホッと気の抜けたような優しい表情になるんです。」
「……。」
「ってごめんなさい。またまた口走っちゃって。」
相変わらず、お客さんは来る気配がなかった。
店内には私と絵里の声だけが響いた。
「絵里、もう私のことはいいよ。正樹のことも。
気にかけてくれるには嬉しい、けど本当、もう誰とも関わりたくないの。」
私は、再び荷出しを進めた。
沈黙が続くかと思いきや絵里は笑って言った。
「じゃあ、先輩。絵里の独り言。聞き流してもらって構いません。けど絵里、暇だから。」
絵里は「んーっ」と言って背伸びをした。
「基本的に、絵里のことみんな馬鹿にするじゃないですか。まぁ馬鹿なんですけど。ヘラヘラしていて、能天気なやつって思うと思うんです。」
「……。」
「けどね、絵里、けっこう今までいろいろあって。喋りだしたらキリは無いんですけど。
両親が小学生の頃離婚して、絵里はママに引き取られました。でもその1年後にママは再婚して、その後は新しいお父さんと2人の子供をもうけて。
小さい頃からずーっと絵里は家族の中で、なんとなく疎外感の中で過ごして来たんです。もともとパパはギャンブル、酒、借金、女ってどうしようもない人だったから、新しいお父さんはマシでした。でも小学生高学年の絵里には、それはそれで受け入れられなかった。」
私は気付けば、再び手を止め、目の前の商品を見つめて話を聞いていた。