雨のち晴れ
「彼は、高校の教師を目指していたんです。だから高校生だった絵里のこと、ほっとけなかったみたいで。
実際にアパートにぶち込まれる前から、絵里のこと目撃していたみたいで。とうとうしびれを切らしたみたいです。」
そこまで絵里が話すと、自動ドアが開いた。
お客さんかと思ったが誰もおらず、強風でどうやら開いたようだった。
「風、強くなってきたみたいですね。
…先輩、まだ独り言続けてもいいですか?」
「うん、いいよ。でもちょっと待って。」
私は残りの商品を全部出し終えて、絵里が立つ隣のレジへと移動した。
ちゃんと絵里の独り言―――
聞きたいと思った。
「彼がそういう高校生を連れてきたのは前にもあったらしくて、職場の方々はそんなに驚かなかったです。
ただ女の子は絵里が初めてみたいですけど。
なんか無駄に正義感、強いですよね。本当に絵里、鬱陶しくて。」
また絵里は笑った。
こんな可愛らしい笑顔からはとても想像つかない絵里の過去。
「でも、絵里、彼だけは拒絶しなかった…。ものごころついて以来、初めて心を開ける大人でした。
彼は確かに絵里のことお説教しました。でもそれは怒ってたんじゃなくて、叱ってくれてた。絵里のためにって伝わりました、愛情があったんです。
そのことが、どことなく感じたから…」
絵里はしばらく口を閉じた。
いっぱい考えることはあると思う。
思い出したくない過去なのかもしれない。
けれど絵里はそれをわざわざ私に伝えようとしてくれている。