雨のち晴れ


「正樹、眼鏡も似合うのね。」

「ん?そうかぁ?」

正樹は眼鏡のフレームを触る。

「紗子がそんなこと言ってくれるなんて、珍しいな、嬉しいよ。」

「べ、別に褒めてないよ。ちょっとそう思っただけ。」

私がそう言うのを、正樹は可笑しそうに笑う。

「…少しは元気になった?」

「おう、紗子に会えたからもう大丈夫。無理矢理でも紗子の所に行けば良かった。」

「え?」

「紗子に会えなかったら、余計に酷くなったんだよ。紗子…欠乏症ってやつ?」

「何よそれ。」

「いやいや、本当に。」

2人で他愛もない話をする。
盛り上がるわけでも無いし、何かがあるわけでも無い。

ただただ正樹との時間をゆっくり過ごした。

静かに、ゆったりと流れる時間。

私はこの時間が心地よいと感じた。


「シフォンケーキ、食べようぜ。」

ご飯を食べ終えて、正樹が言った。

「そんなに食べれる?」

正樹は綺麗に完食してくれた。
体調が優れないのに、そんなに食べられるのだろうか?

「もう大丈夫、ご飯も食って完全回復。紗子がせっかく作ってきてくれたんだから、食いたい。」

「うん、分かった。」

こうやって、誰かのために作る料理やお菓子。

こんなにも心が弾むとは思っていなかった。
こんなこと今まで思ったこともない。

優しい気持ち、あったかい気持ち。

正樹と出会って、今まで知らなかったものがたくさん見えるようになった気がした。


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