雨のち晴れ
「うん…」
「ごめん、こんなこと唐突に言うことじゃねぇよな。でも今日、本当に紗子のこと愛おしいって思った。」
正樹は笑った。いつもの優しい笑顔。
少し腰を屈めて、私と同じ視線になる正樹。
「ありがとな、俺、紗子がいてくれて本当に良かった。感謝してる。」
「私は…何も…」
「気をつけてな、おやすみ。」
正樹はポンポンと私の頭を撫でた。
私は何も言わずに、正樹に背を向け駅へと向かった。
少し肌寒い。
外はどことなく雨の匂いがした。
あんなに天気が良かったのに。
「……。」
頭がぼーっとした。
正樹の風邪でもうったのかな?
それとも———
よく分からないや。色々と。
とりあえず、正樹が少しでも元気になってくれたなら、もうそれでいい。
あとは、何も考えたくなかった。
優しい正樹の笑顔。
私にはそれだけで十分なのに。
これって贅沢なの?
それ以上、望んでないのに。
電車に揺られ、歩いて、気付いたら家に着いていた。
あんまり、帰り道の記憶が無かった。
まるでワープしたかのようだった。
今日は、もう寝よう。
外はいつの間にか、しとしとと雨が降り出していた。