雨のち晴れ


「うん…」

「ごめん、こんなこと唐突に言うことじゃねぇよな。でも今日、本当に紗子のこと愛おしいって思った。」

正樹は笑った。いつもの優しい笑顔。

少し腰を屈めて、私と同じ視線になる正樹。

「ありがとな、俺、紗子がいてくれて本当に良かった。感謝してる。」

「私は…何も…」

「気をつけてな、おやすみ。」

正樹はポンポンと私の頭を撫でた。

私は何も言わずに、正樹に背を向け駅へと向かった。


少し肌寒い。
外はどことなく雨の匂いがした。

あんなに天気が良かったのに。

「……。」


頭がぼーっとした。
正樹の風邪でもうったのかな?

それとも———


よく分からないや。色々と。


とりあえず、正樹が少しでも元気になってくれたなら、もうそれでいい。

あとは、何も考えたくなかった。


優しい正樹の笑顔。

私にはそれだけで十分なのに。

これって贅沢なの?

それ以上、望んでないのに。


電車に揺られ、歩いて、気付いたら家に着いていた。

あんまり、帰り道の記憶が無かった。
まるでワープしたかのようだった。

今日は、もう寝よう。



外はいつの間にか、しとしとと雨が降り出していた。


< 84 / 173 >

この作品をシェア

pagetop