雨のち晴れ
「紗子先輩、なんだか最近お疲れですね。」
バイト中に絵里がそう言った。
お疲れ…なのかな?
「大丈夫ですか?無理なさらないで下さいね!シフトならいつでも代わりますから!」
「あ、うん。大丈夫、ありがとう。」
「ならいいですけど…」
絵里の不安そうな顔が視界に入った。
だめだめ、ちゃんと集中しなきゃ。
「森岡さんと、うまくいってないんですか?」
「えっ?」
いや、絵里、ちょっと待って。
何そのもうデキてるみたいな言い方。
「上手くも何も…何も無いわよ。」
「またまた〜。もうすぐ来ますね、きっと。」
正樹の話になるとすぐニヤニヤする絵里。
ほんとにまったくもう…
それでも絵里と話すと、少しだけ気が晴れるのも確か。
この能天気そうで、ちゃんと考えてる絵里。
未だに絵里の過去にはびっくりだけど。
「ありがとうございます。」
空いている店内で、レジの音が響く。
「合計で820円になり…」
「あれ?」
ん…?
私が読み上げるのを遮るようにお客さんは声を出した。
普段からあまりお客さんを見ない私は、そこでやっとお客さんを見る。
「あぁ、やっぱり。マスターのとこの、看板娘さん。」
目の前には、40歳前半くらいだろうか。
1人のサラリーマン。
……あ。
なんか見たことあるような、ないような。