雨のち晴れ
「リベルタ…の?」
「あーうん、覚えてないよね。けっこうあそこ通ってた者で。」
「すみません。」
「ううん、いいのいいの。にしても君も大変だったね。マスター突然お店畳むんだもん。」
「……。」
「本当にびっくりだよ。あそこ、とてもお気に入りだったのに。今でもマスターのコーヒーが飲みたいよ。」
男性は懐かしそうに笑った。
「あ、何かマスターから聞いてない?」
「いえ、何も…」
「そうかぁ、看板娘さんにも言わないんだね。やっぱりあの人は不思議な人だね。」
「……。」
マスターという言葉だけでドキリとする。
この人も、マスターを知ってるんだね。
きっとあのお店の雰囲気やマスターのことが好きだったんだろうな。
と、その時、入口のドアが開いた。
「いらっしゃいませ〜、あ、こんばんは。」
隣のレジにいる絵里の声が響く。
正樹だった。
そして、ふと目の前にいる男性を見ると、男性は正樹のことをじっと見つめていた。
そんな正樹も視線を感じてか、私を見たあとチラッと男性に目を向ける。
時間がなんとなく止まったような気がした。
よく分からないけど、ゆっくり時間が流れるような、そんな瞬間。
そして―――
「正樹くん?」
男性がそう言うとともに、正樹は目を見開いた。
「香山(かやま)さん…!」