雨のち晴れ
ちょ、ちょっと待って。
何?
この人は何を言っているの…?
―――リベルタのバイトの子2人……?
「紗子…」
名前を呼ばれハッとすると、いつの間にか香山さんは帰ったらしく、正樹だけがいた。
私はおずおずと後ろに下がるが、電子レンジが背中に当たった。
しばらく沈黙が続いた。
少し頭の中が落ち着く。
つまり、正樹はマスターのことを知っている。
ましてや、あそこでアルバイトをしていた。
マスターは私を雇う時に、私が2人目だといっていた。
ということは、正樹が1人目ってこと…?
「なんで…」
私は震える声でそう呟いた。
涙が溢れそうなのをグッとこらえる。
「ごめん、紗子。」
その正樹の言葉がすべてを物語ってるように聞こえた。
正樹は、私があのお店でバイトをしていたことを知っていたんだ。
私にとってマスターがどんなに大切な人かということも、全部全部――――
「意味分からない…」
ごめんって何…?
なんで、そんなこと黙っていたの?
意図的に隠す必要なんてあるの?
「少し話がしたい。駅で待ってる。」
私はうんともすんとも言わず、ただボーっと一点だけを見つめる。
気付いたら、正樹は退店していた。