雨のち晴れ


ちょ、ちょっと待って。

何?

この人は何を言っているの…?


―――リベルタのバイトの子2人……?


「紗子…」

名前を呼ばれハッとすると、いつの間にか香山さんは帰ったらしく、正樹だけがいた。

私はおずおずと後ろに下がるが、電子レンジが背中に当たった。


しばらく沈黙が続いた。


少し頭の中が落ち着く。


つまり、正樹はマスターのことを知っている。

ましてや、あそこでアルバイトをしていた。


マスターは私を雇う時に、私が2人目だといっていた。

ということは、正樹が1人目ってこと…?


「なんで…」

私は震える声でそう呟いた。

涙が溢れそうなのをグッとこらえる。


「ごめん、紗子。」

その正樹の言葉がすべてを物語ってるように聞こえた。


正樹は、私があのお店でバイトをしていたことを知っていたんだ。

私にとってマスターがどんなに大切な人かということも、全部全部――――


「意味分からない…」

ごめんって何…?

なんで、そんなこと黙っていたの?

意図的に隠す必要なんてあるの?


「少し話がしたい。駅で待ってる。」

私はうんともすんとも言わず、ただボーっと一点だけを見つめる。

気付いたら、正樹は退店していた。


< 91 / 173 >

この作品をシェア

pagetop