雨のち晴れ
バイトが終わり、重たい足取りで駅へと向かう。
バイト先を大学の最寄りで選んだことをひどく後悔した。
家の最寄りだったら、こうやって正樹と顔を合わせなくてすんだかもしれない。
「紗子…!」
案の定、改札口の前にいた正樹。
私は正樹の視線を振り切るように行こうとしたが、簡単に捕まってしまった。
「待ってって…」
「離して。」
「紗子…」
正樹の顔を見たくなかった。
きっと私は正樹を責め立てるから。
別に悪いことでもない、マスターを知っていたところで、だから何?と言われたらそれで済んでしまう話なのだ。
けれど…それでも…
私はひどく裏切られた気分だった。
あの反応から見て、正樹は私とマスターの関係をきっと知っている。
「なんで…?」
私はそう静かに聞いた。
「隠す必要でもあった…?」
そこで、やっと私は正樹の顔を見た。
悲しそうな正樹の顔。
なんで、正樹がそんな顔するの?
そして口を閉じていた正樹がゆっくりと呟いた。
「マスターは…あの人は俺の伯父なんだ。」
「えっ…?」
伯父?
マスターは、正樹の伯父?
突然の告白に私は正樹を見つめ返す。
「……。」
伯父…マスターの親族?
マスターから身内のお話を聞いたことがなかった。
私と同じでマスターもひとり…そんな風に勝手に思っていた。
だから、なんとなくマスターに親族がいるということがイメージつかなかった。