雨のち晴れ


えっ……?
今、なんて……?

私はもう一度、正樹を見る。

私の聞き間違いか何か?
電車のアナウンスとかでよく聞こえなかったのかな?
それとも空耳?

いつの間にか私は正樹の両腕を離していて、逆に正樹にしっかりと肩を支えられた。

「紗子。信じられないと思うけど、よく聞いて。あの人は2年前に亡くなった。」

「は…」

ねぇ、だからさっきから何を言ってるの?

正樹の言葉が十分に理解できなかった。

「縁起でもないこと言わないで…ねぇ、だから今マスターはどこに…」

「紗子…」

私は正樹が唇を噛み締めている姿を見て、ようやく状況が飲み込めたような気がした。


————亡くなった……??

マスターが亡くなった?

「はは…」

私は頭の中きら言葉をかき消す。

「何言ってるの。そんなわけないじゃない。」

「本当なんだ。癌で亡くなった。」

「やめてよ、正樹。私、いい加減にしないと怒るわよ?」

「紗子、おちついて。今日は俺の家に行こう?」

「嘘って言って。嘘って…」

胸が苦しかった。
締め付けられる思いだった。

———また、取り残された。

もがく私を正樹は必死になだめようとする。

そんな正樹を振り払う。

「離してっ…」

「紗子!」

「嫌い…正樹なんて大っ嫌い…!!」


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