雨のち晴れ
私は力一杯に正樹の胸を押して、改札口へと飛び込んだ。
「紗子…!」と後ろから正樹の声がするのを振り払い、ホームへ駆け込む。
ちょうどタイミング良く来た電車に乗り込み、私はしゃがみ込む。
電車内に乗っていた人たちの視線なんて何も気にならなかった。
今は手の震えを止めるように、口元に当てる。
嘘————
嘘だよね?
涙が溢れそうなのをこらえる。
早く家に帰りたい。
誰かが「大丈夫ですか?」と誰かがかけてくれた声にも、私はまともに答えず、ただ電車が進むのを待った。
駅に着いて、私は家までの短い距離を走った。
いつの間にか、外は土砂降りの雨。
そういえば、今日明日は秋雨前線がどうたらこうたらって言っていた。
「…っ」
そして、プツンと何かが切れたかのように、我慢していた涙や感情が一気に溢れ出る。
言葉にするのも怖かった。
考えることすら怖かった。
マスター、どうして…?
家のドアを閉めて、私はずぶ濡れのまま玄関にしゃがみ込む。
自分の身体を強く抱きしめるように、小さく丸くなった。
そして、声を上げて泣いた。
まるで2年前の夏と同じ。
マスターが突然いなくなったあの日も雨だった。
雨の中私は子どものように泣きじゃくった。
そして、今もまた、私はマスターのことで泣いた。
「……っ」
もう、私の人生に光なんてない。