雨のち晴れ


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ろくに寝られずに朝を迎えた。

気持ち悪い……

昨日はお昼以降何も食べてないから胃が空っぽなはずなのに、朝から重たかった。

何かの悪い夢かと思いたかったが、自分の格好を見て昨日のことが蘇る。

「マスター…」

死んじゃったの?

なんで?

ひとつの重たい事実が私の頭をハンマーで殴る。

私はとりあえず熱いシャワーを浴び、服を着替えた。

そしてタンスの一番右下の小さな鍵のついた引き出しを開けた。

「……。」

中にはたったひとつの白い封筒。

この引き出しはもう2年開けていなかった。
これを受け取ってしまって以来、1度も———


相変わらずのマスターの綺麗な字。

【紗子へ】

ねぇ、なんで?
どうして?

封筒を手に取った瞬間、マスターの温もりが蘇った気がして苦しくなる。

全部、全部悪い夢……

そう誰かに言って欲しかった。


【紗子へ

驚かせてしまって申し訳ない。
きっと今、君はパニック状態になっているだろう。
だけど紗子、落ち着いて。ゆっくり深呼吸をしてごらん。

紗子には謝らなければいけないことがある。
このお店を6月20日付で引き払うことになった。

本当にすまない。

勝手な言い分だが、もう僕のことは忘れて欲しい。
事情があって、もう会えなくなってしまった。

紗子、君を裏切るつもりは本当に無いんだ。
今はまだそれしか言えない。

紗子、ありがとう。そして、ごめんなさい。

柳 浩一】


今はまだそれしか言えない、か。


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