たとえばアナタと恋をして

*****

道案内しながらアパートまで送ってもらい、バイバイをする。

とても、上がってなんて気安く言えるような状態ではないし。

部屋も、あたしの気持ちも。


晃も、仕事中だからそんな暇は勿論なくて。



一人になってから、ふとこの状況の凄さに気づく。


えーと、これから何をどうしたらいいの?

今、あたしの心臓が飛び出しそうにバクバクしているのは、間違いなく別れ際の晃のせい。


「んじゃ、またな」

と言いながら、穏やかに微笑み、あたしのほっぺを手のひらでそっと撫でた。

ひやりと冷たい晃の手は、凄く気持ちがよくて。

そこから、キスをするわけでもなく、そっとその手は離れていって。


なんだろう、この『大切に扱われる感』。

思い出すだけで、心臓がきゅっとなるよ。

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